福岡高等裁判所 昭和37年(ネ)407号 判決 1962年7月20日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。福岡地方裁判所が昭和三六年(リ)第二二号配当手続事件につき作成した配当表のうち、各被控訴人に対する配当記載部分を取消し、更に、控訴人の債権額について第一順位の優先配当に変更する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。」との判決を求め被控訴人株式会社竹下木材市場代表者及び被控訴人国指定代理人はいづれも「主文同旨」の判決を求めた。
当事者双方の事実上及び法律上の主張は、すべて原判決事実摘示のとおりだから、これをここに引用する。
理由
控訴人の請求は理由がなく棄却を免れないものと判断するが、その理由は、次に補足的意見を附加する外、原判決の説示するとおりだから、その理由記載をここに引用する。
質権の設定されている電話加入権について、一般債権に基づく差押及び換価がなされた場合、その質権をいかに処遇するかについては、民訴法及び電話加入権質に関する臨時特例法(以下特例法という)のいづれにも何等の規定が存しない。しかしながら、電話加入権を目的とする質権の設定、変更、移転又は消滅は、電話取扱局に備える原簿に登録しなければ日本電信電話公社其の他の第三者に対抗することが出来ない(特例法第五条)から、これを登録制度のない動産質と同様に取扱うのは相当でなく、むしろ、これについては、不動産執行に関する民訴法第六四九条第四項の適用あるものと解する被控訴人国の主張に従うとしても、このことから当然に電話加入権の質権者が一般債権に基づく執行により得られた換価代金については優先弁済権を有せず、他の一般債権者と同様平等配当にあずかるにすぎないものと結論することはできない。蓋し、右民訴法の条項は競売の手続規定であり、所謂引受主義に基づき競落人において、質権を以て担保する債権及び質権者に対し優先権を有する者の債権を弁済する責に任ずることを規定したに止まり、競売における質権の優先弁済権を否定した実体規定でなく、配当、要求における債権者間の優劣は、各債権の実体法上の効力により定まるものだからである。
従つて以上説示の限りにおいては控訴人の主張するとおりであるといわねばならない。しかしながら、右の場合、控訴人の主張に従い質権者において優先弁済権ありとしても、右質権の消滅に伴う質権設定登録を抹消するについては、何等の手続規定も存しないから、質権の設定された電話加入権の競落人は質権者において右登録の抹消に応じない限り、訴を以て之が抹消を求むるの外に途なく、なお亦質権者において換価金の配当要求をなさないような場合には、訴によるも之が抹消請求を認容されることを期待することはできないことが明らかである。却つて、原判決の見解に従えば、右の如き不都合を避けうると共に、質権者の電話加入権に対する優先弁済権も失わるるところはないから、原判決の見解を以て正しとせねばならない。以上の理由により控訴人の主張は採用することができない。
よつて、右と同旨の原判決は相当で、本件控訴はその理由がないから、之を棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法第八九条第九五条本文を適用して、主文のとおり判決する。